私が美容医療をするようになったわけ
今回は、なぜ私が美容皮膚科をするようになったのか、などについてお話しようと思います。
もともと、大学病院や基幹病院で一般皮膚科診療しかしていませんでした。
皮膚科は幅広く、まずはそこの知識や勉強でいっぱいいっぱいだったというのもありますし、大学病院などでは、美容皮膚科は「やや邪道」という雰囲気もあり、学ぶ環境もなかったというのもあります。
また、たまに患者さんにシミや肝斑のお悩みをうかがっても、「まあ病気じゃないから、健康だからいいでしょ。」という意識もあったと思います。
ある時期、基幹病院で勤務していた際、初めてレーザー機器に触れることになりました。
オーベン(上司)から、マニュアルを渡され、「このように打てばよいからね」と、
言われるがままに治療する日々でした。
これって効いてるのかな?どういう仕組みなのかな?と頭は「?」でいっぱいでしたが、患者さんは「すごく良かったです!」と喜んでくださっていました。
感想はありがたいのですが、実際に施術前後の画像を取るわけでもないので、実際のところがわからず、本当に効いているのか?どう有効なのか?そもそもシミや肝斑とは何なのか?大学でもさらっとしか教わらない分野に、なぞは深まる一方でした。
そんな中、ある二人の患者さんに出会います。
お一人は、ご高齢で同じ病院にご主人が入院されているので、お見舞いのついでに皮膚科に立ち寄ってくださっていました。他愛もない話をしたり、湿疹をみたりする中で、お顔のいぼが気になるとのことで、治療を開始しました。
たくさんあったので、毎回数個ずつ除去していたのですが、ある時パタッといらっしゃらなくなりました。どうしたのかな?と思っているうちに、半年ほどたち、ようやくいらっしゃいました。
「主人がなくなったので、来られなかったんです。」
と。
「主人が亡くなって、何もやる気になれないし、お見舞いもないから病院に来る機会もなくて・・・。
でも、こないだふと自分の顔をみたら、イボが以前より消えてるのに気づいて、また治療しようと思ってきました。」
とのことでした。
治療を再開し、どんどんお顔はきれいになっていきました。
そうして治療が終わるころ、ずいぶん晴れやかな表情となった患者さんが
「お顔がきれいになって、またお友達と出かけたりする気持ちになりました。ありがとうございました。」
と、言ってくださいました。
お顔のいぼはよくある疾患で、皮膚科の中ではやや美容医療に近く、そう重要視されているものではありませんでした。
それが、こんなに喜んでいただけて、その人の日常を変える力があるんだな、美容医療も医療の一分野なんだと感じた瞬間でした。
そのころの自分の中にあった「より難しい疾患を診ることがより重要」という、医師側の視点を変えていただいた出来事でした。
もう一人、私に影響を与えてくださった患者さんは若い女性の患者さんでした。10年近く、かなりひどいにきびに悩まれていました。当時はあまり良い薬もなく、前医から同じ抗生剤を十数年に渡って処方されていました。
「あまりに長い抗生剤の内服は、耐性菌の危険もあるから一旦休薬しましょう。」
とご提案し、抗生剤の内服をやめていただきました。
すると、みるみる悪くなり、切開排膿が必要なほどに増悪してしまったのです。
「やっぱり、抗生剤の内服しかないのかな?他によい手はないのか?」
と考えた末、その時にあったレーザーを試してみることにしました。
当時の文献や使用経験のある先生の書籍を読んで、おそるおそる試したところ、4回の照射で抗生剤の内服がいらなくなるほど改善したのです。
このような経験から、
美容医療は、普通の医療でうまくいかない方のもう一つの選択肢になり得る。
病気とは言えなくても、それを治すことで人の心や生活を改善することができる。
と、美容医療の可能性を感じ、レーザー治療をはじめとした勉強を開始することになりました。
美容医療は、エビデンスを取ることが難しく(お顔をきれいにしたいのに、きれいにしたあとの肌を切って検査に出すなどが難しいため、倫理的側面などの理由による。)そのために、医療としての勉強が難しい実情があります。
そのため、施術前後の客観的な評価をすることで肌を診断し、レーザーその他の仕組み、機能、効果などについても知識を深めました。
その間、
シミやたるみで悩んでいた方
抗がん剤で顔がくすみ、気持ちも落ち込んでいた方、
ニキビで学校にいくのも嫌になっていた高校生の方など、
さまざまな患者さんと出会い、治療によって生き生きした表情になっていかれるのを経験してきました。
もちろん、一般皮膚科の知識は大切です。
そのうえで、美容皮膚科はその一分野として、提供されるべきだと私は考えています。
一般皮膚科も美容皮膚科も、患者さんが悩みに煩わされることなく、自分の人生を健やかに生き生きと過ごせるお手伝いをするという本質に変わりはありません。
これからも、よりよい医療をご提供できるよう日々勉強し、1人1人のお悩みに寄り添った診療をしていきたいと思います。